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直接授乳時の口唇の開き、吸着深度、口腔内ポジションの研究

適切な吸着を適えるデザインの追求

吸着(ラッチオン)は「吸着」「吸啜」「嚥下」から成る哺乳運動のスタートであり、続く吸啜、嚥下の基礎の役割を果たします。ピジョンでは、「吸着」の哺乳運動における意義とメカニズムを解明するため、直接授乳における適切な吸着の在り方を研究し、それを再現する人工乳首を目指しています。

ピジョンの吸着(ラッチオン)研究

「授乳初期の直母における哺乳中の吸着評定4:口腔内の吸着深度の検討」1)の要旨

適切な吸着(ラッチオン)は、母乳育児成功にとって重要であり2)、効果的な吸啜、嚥下のためには、赤ちゃんは乳頭だけを吸うのではなく、乳頭乳輪体で形成された吸い口を深くふくむことが重要とされています3)。しかし、「吸着の深さ」についての客観的な目安は統一されていませんでした。そこで外観観察とエコー(超音波診断装置)を併用する口腔内観察法で、吸着深度の数値化を図りました。その結果、外観観察法により推測した直接授乳時に赤ちゃんがふくむ乳首の平均値は22.7±7.19mm、新たな観察方法により算出した哺乳中の赤ちゃんの口唇部から口腔内の乳頭先端までの平均値は29.1±3.72mmとなり、哺乳中に1.4倍程度伸長されていることが示唆されました。
阿部晃子*1) 町屋佳子*1) 斉藤 哲*1) 林 良寛*2)
*1)ピジョン株式会社中央研究所  *2)良寛こどもファミリークリニック

研究の背景

母乳育児における吸着(ラッチオン)の重要性

正しい吸着を心掛けることで、乳頭が傷つくことを予防し、十分に授乳でき、赤ちゃんへの乳汁移行が効果的になされ、乳房への適度な刺激によって、持続した母乳の産生を維持できるとされています2)

吸着(ラッチオン)は口唇を開き深くくわえることが重要

効果的に吸啜、嚥下するためには、赤ちゃんは乳頭だけを吸うのではなく、乳輪部まで深く口にふくみ、口唇を外側に開いて乳輪に密着させることが重要であるとされています3)(図1)。
吸着(ラッチオン)は、外観観察による開口角度や口唇位置などで評価することができます4) 6)。一方で、口腔内の乳首の長さや位置は外観からでは観察できず、評価方法がありませんでした。

効果的な吸着のサイン

研究の目的

そこで、吸着時の赤ちゃんの口腔内の状態と、くわえた乳頭乳輪体の哺乳時の口腔内での状態を観察しました。
従来の開口角度、口唇位置の評価に加えて、哺乳時の口腔内における乳首の吸着深度を測定することを目的とし、直接授乳中の赤ちゃんの口唇部の外観撮影に口腔内エコー撮影を加えた手法により、より実態を反映したくわえる“深さ” の定量化を図りました。

方法

  • 対  象
    直接授乳を行い、1日1回以上哺乳びんを使用している産後・生後4~6週の母児14組(直接授乳が問題なく実施できている母児)
  • 観察方法
    ボトル・直接授乳中、ビデオカメラを用いて赤ちゃんの顔の側面を真横から撮影(外観画像)し、同時に超音波診断装置(エコー)を用いて下顎からの矢状断のエコー画像を撮影しました。外観画像とエコー画像は、同期撮影装置にて同期記録しました。
    観察(撮影)方法の模式図 観察(撮影)方法の模式図
  • 分析方法
    哺乳中の真横からの外観画像および下顎からのエコー画像から下記の項目を算出しました。
    ① 外観吸着深度:ふくみ量(外観画像から算出)
    ② 口腔内吸着深度:ひきこみ量(外観画像およびエコー画像から算出)
    ③ 哺乳時の乳頭先端位置(エコー画像を用いて算出)
新たな観察手法の利点

結果

  • 対象者14組中哺乳中の外観画像とエコー画像が明瞭であった生後4~6 週間の母児10組(男児5名、女児5名、出生順位は第1子4 名、第2子5名、第4子1名)を分析対象としました。母親の年齢は平均30.6±2.8 歳(26 歳~35歳)でした。
  • ふくみ量は、平均22.65±7.19mmでした。
  • ひきこみ量は、ふくみ量の平均1.38±0.42 倍でした。先行研究9) 10)と同様、哺乳中の乳首は伸長されていたことが示され、乳頭先端がHSPJの少し手前までひきこまれている様子が観察されました。

こうした結果から、本研究の測定方法と測定値は、通常の直接授乳の状態を反映しており

直接授乳時のひきこみ量は、外観画像と口腔内エコーを用いることで数値化が可能なことが示唆されました。

研究結果の考察

口腔内の乳頭先端のポジションをふまえた吸着評価の必要性

本研究では、生後4~6 週の健常な母児における直接授乳時の乳頭先端は、赤ちゃんの口唇部から約29mmの位置にあり(図2)、この時の口腔内の乳頭先端とHSJPまでの距離の計測結果は先行研究7) 8)と同様であることが示されました。
適切な吸着においては「深くくわえる」ことが重要2)とされていますが、本結果により、ふくみ量だけでは分からなかった、哺乳中の乳首の伸長分を含めたひきこみ量定量化の可能性と、口腔内の乳頭先端ポジションをふまえた吸着評価の必要性が示唆されました。

 

母乳育児において適切な吸着(ラッチオン)の重要性は様々な観点から指摘されています。
母乳育児を断念する理由の一つに乳頭痛と乳頭損傷がありますが、その予防法として有効性が認められ、UNICEF/ WHO の授乳教育において強調されているのが適切な授乳姿勢と吸着の大切さです11)
適切な吸着(ラッチオン)により、浅いくわえで生じやすい乳頭痛や損傷の予防につながり、口唇の吸盤効果により口腔内の密閉が保たれることで乳汁のモレを防ぎ、効果的な吸啜による乳汁移行を実現しますが、不適切な吸着は、乳頭の傷や痛みによって、十分に乳汁が飲みとれず乳房緊満が発生し、乳汁の分泌が低下するリスクが高まると言われています3)
本研究で示されたひきこみ量と口腔内の乳頭先端ポジションが、適切な吸着(ラッチオン)を探求する哺乳研究の進展に示唆を与えるものと捉えています。

図2
             加えるの深さの目安

吸着研究から生まれた適切な吸着を実現するためのデザイン

吸着深度の見える化

ピジョンの吸着研究の結果1)、適切な吸着には、乳頭だけではなく乳輪部まで深くくわえ、口唇を外側に開き乳輪部にしっかり密着させることに加えて、口腔内の乳頭先端ポジションをふまえて吸着を評価する必要性が示されました。
口唇を外側に開いてくわえること、乳輪に口唇を密着させることは外観から観察できますが、口の中のどこまで深くひきこまれているかは外観から見ることはできません(図3)。
人工乳首「母乳実感」にはラッチオン位置の目安となるラインをデザインし、授乳者が適切な深さに誘導できるようにしています(図4)。

図3
             乳頭先端の目安のイメージ
図4
             研究結果から、目安となるラッチオンラインを決定
口唇が密着する形状

乳輪部のふくらみを抑え、胴部から先端部までなだらかな曲線で形成され余計なくびれがない構造により、広い口径で、乳輪部分はすっきりした形状としています。
ひとつの曲線で形成され余計なくびれがない形状のため、赤ちゃんの口の大きさに合わせた深さでくわえても直接授乳時と同じように唇を外側に開いてくわえることができ、乳輪部に口唇をしっかり密着させやすくなっています(図5)。

図5
             吸着の「機能」を再現した「母乳実感」
参考文献
  1. 1) 阿部晃子ほか. 授乳期初期の直母における哺乳中の吸着評定4 : 口腔内における吸着深度の検討. 日本新生児成育医学会雑誌. 2018; 30(3): 775.(ポスター発表: 第63回日本新生児成育医学会・学術集会. 2018年11月; 東京.)
  2. 2) 国小児科学会. 平林円, 笠松堅實監訳. 第6章 出産前後のケア―授乳への移行. 医師のための母乳育児ハンドブック. メディカ出版, 東京, 2007: 57-59.(Schanler RJ, Dooley S. Eds. Breastfeeding handbook for physicians. American Academy of Pediatrics. 2005.  ※2013年出版2nd Editionあり)
  3. 3) NPO法人日本ラクテーション・コンサルタント協会. 母乳育児支援スタンダード 第2 版. 医学書院, 東京,2015: 167-172.
  4. 4) 阿部晃子ほか. 授乳期初期の直母における哺乳中の吸着評定2 : 口角の角度の検討. 日本新生児成育医学会雑誌. 2016; 28(3): 747.(ポスター発表: 第61回日本新生児成育医学会・学術集会. 2016年12月; 大阪. )
  5. 5) 阿部晃子ほか. 授乳期初期の直母における哺乳中の吸着評価. 日本新生児成育医学会雑誌. 2015; 27(3):599.(ポスター発表: 第60回日本新生児成育医学会・学術集会. 2015年10月; 盛岡. )
  6. 6) 角田奈々ほか. 授乳期初期の直母における哺乳中の吸着評定3 : 口唇位置の検討. 日本新生児成育医学会雑誌. 2017; 29(3): 690.(ポスター発表: 第62回日本新生児成育医学会・学術集会. 2017年10月; 埼玉.)
  7. 7) Geddes DT, et al. Tongue movement and intra-oral vacuum in breastfeeding infants. Early Human Development. 2008; 84(7): 471-477.
  8. 8) acob LA, et al. Normal nipple position in term infants measured on breastfeeding ultrasound. Journal of Human Lactation. 2007; 23(1): 52-59.
  9. 9) Smith WL, et al. Imaging evaluation of the human nipple during breast-feeding. American Journal of Diseases of Children. 1988; 142(1): 76-78.
  10. 10)  Nowak AJ, et al. Imaging evaluation of artificial nipples during bottle feeding. Archives of Pediatrics and Adolescent Medicine. 1994 ; 148(1): 40-42.
  11. 11)  UNICEF/WHO. BFHI 2009翻訳編集委員会訳. UNICEF/WHO赤ちゃんとお母さんにやさしい母乳育児支援ガイド ベ