

赤ちゃんの適切な吸啜には、ママの乳首がやわらかい方がよいとされています1)。乳首のやわらかさに関しては、従来から触診による評価が行われていましたが2) 3)、客観的に測定し数値化したデータはほとんどありませんでした。そのためピジョンでは新たに測定装置を開発し、客観的な測定にもとづき自然な吸啜運動のために重要な“授乳婦乳首のやわらかさ”について研究を実施してきました4) 5)。
授乳婦乳首のやわらかさの測定3 -乳頭と口唇のやわらかさの比較検討-
ピジョンでは、新たな測定装置を開発し、授乳婦乳首のやわらかさの定量評価を目指してきました。
先行研究4) <5)では測定した乳頭弾性値が、授乳婦乳首のやわらかさの客観的な評価指標となり得ることが示されています。本研究では、哺乳支援の現場での活用を視野に入れ、より小型化した装置を用いて授乳婦乳首を測定しました。
その結果、授乳婦の乳頭弾性値は、小型装置においても安定した測定ができることが確認されました。
また、授乳支援の現場では乳首のやわらかさの目安として「口唇状」であることが適切なやわらかさの指標として活用されています。比較検討のため測定した口唇弾性値は乳頭弾性値と近い値と反力変化の特性を示し、触診による乳首のやわらかさを示す目安としての妥当性が示されました。
打越楓佳*1、斉藤哲*1 *1 ビジョン株式会社 中央研究所
哺乳時、赤ちゃんは大人が飲み物をストローで吸う時とは全く異なる口の動きをしています。口腔内ビデオ撮影法7)や超音波断層撮影法8)などの観察研究の結果から、乳首を刺激し、圧搾、吸引する口唇、舌、顎の協調運動により乳汁がしぼり出されていることが分かってきています。この舌の運動を中心とした乳首を圧搾、吸引する働きが、乳児期のみに存在する「吸啜」運動の中心的なメカニズムとされています9)。
授乳においては、赤ちゃんが乳首に適切に吸着し、乳汁を効果的に飲む必要があります。吸着にはママの乳首の状態が影響を及ぼすと考えられ、乳首のやわらかさ(乳頭の硬度)や長さが授乳の成否やトラブルの発生に関与することが指摘されています3)。また、適切な吸啜のためにも、乳首はやわらかい方がよいとされています1)。しかし、実際の乳頭の硬度については乳首をつまんだときの乳首の伸長の程度2)や、触感での硬さを3 段階に分類して評価する3)など触診による主観的な評価方法が用いられており、客観的な測定による数値化が求められていました。
吸啜運動では、乳汁の「圧出」と「吸引」が繰り返されます。これら一連の動きの基盤になっているのが、舌の「蠕動様運動」であることが分かっています10) 図1)。赤ちゃんの舌のなめらかな運動によりママの乳首が圧迫、解放され、乳汁が引き出されます。直接授乳時の口腔内エコー観察研究では、ママの乳首のやわらかさや人工乳首のやわらかさの違いにより、赤ちゃんの舌運動が変化することが示されています10) 11)(図2)。
小型化した授乳婦乳首のやわらかさ測定装置を用いて測定した結果を、従来の触診による判定で十分にやわらかい乳頭の目安とされてきた「口唇のやわらかさ」と比較検討することを本研究の目的としました。
直接授乳時の乳頭形状の変化の研究から、赤ちゃんが吸啜する際には乳頭先端から5mmの部分が最も大きく圧縮され、50%程度まで変化することが分かっています14)。そのため本研究では、測定部位は乳頭の先端から5mmとし、乳頭直径の挟み込み率(%)に対する反力の大きさ(N)を「乳頭弾性」と定義しています。
こうした結果から、小型化した計測装置においても乳首のやわらかさの定量化が可能なことが示唆されました。
本研究では、先行研究4) 5)で用いた計測装置を改良し小型化したものを用いて測定しました。得られた乳頭弾性値(挟み込み率50%時)は、先行研究で示された乳頭弾性値(0.74N 4)、0.96N 5) )と同等であり、類似した非線形性の弾性値変化が認められました。このことにより本研究に用いた小型測定装置「乳首柔らかさ計測装置」の一定の有用性が確認できました。
また、口唇弾性値は乳頭弾性値と近い値を示し、触診による乳首のやわらかさの基準としての妥当性が示唆されました。乳頭と口唇はいずれも非線形性の弾性値変化を示しており、これは両部位に共通するやわらかさの特性であると考えられました。
本研究に用いた装置により、触診による評価が主となっていた乳頭部のやわらかさを数値化し、客観的な指標として検討する研究への展開も期待されます。
哺乳時の舌の動きをエコーで観察し、2次元動作解析システムを用いて解析したところ、舌上各ポイントにおける舌の高さは経時的に変化しており、哺乳はなめらかに波打つ様な舌の蠕動様運動によって行われていることが分かりました10)(図3)。
哺乳中の乳頭形状の変化を、口腔内エコーを用いて観察した研究では、直接授乳時の場合は赤ちゃんの舌運動により乳頭部は6mm程度まで圧縮されることが分かりました。また乳頭先端からの異なる位置の圧縮率(図4)を調べたところ、乳頭先端から5mmの位置が55% 程度と最も圧縮率が大きいことが示されました。
一方、人工乳首では乳頭部の圧縮率は素材の硬さと形状により異なる傾向を示しました。2 種の人工乳首(A 型:球形状の乳頭部を持つタイプ、B型:乳頭部の球形を無くしたストレートタイプ、B型はA型よりも肉厚でやわらかいシリコーン素材を使用)を比較したところ、A型は乳頭先端部が圧縮されにくく、B 型の方が直接授乳時の圧縮のされ方と類似していることが確認されました。
ピジョンの人工乳首には、これまでの研究で判明した哺乳運動の機能を反映しており、特に母乳実感シリーズでは、吸啜研究の結果から赤ちゃんの舌運動を阻害しない形状ややわらかさの機能を再現しています。
ロシアでの研究においてピジョンの人工乳首「母乳実感」を使用して哺乳を行った新生児は、哺乳拒否が少なく、スムーズに直接授乳に戻ったことが報告されており15)(図5)、母乳実感の使用により乳頭混乱を軽減し、直接授乳との併用も可能であることが示唆されています。
母乳実感は、ママのおっぱい形状をトレースして作成したものではありません。おっぱいと同じ哺乳運動の機能的な再現を目指したデザインとしています。乳首のやわらかさに関しても、授乳婦乳首の乳頭弾性値を目指し、乳頭先端が丸残りせずにつぶれる形状を採用し、“自然な哺乳運動を再現するやわらかさ” が、母乳実感の特徴となっています。