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小さく生まれた赤ちゃんの「飲める」を目指す低出生体重児・早産児の嚥下と呼吸の発達を探求するピジョンの研究

ピジョンでは哺乳運動に未熟性が認められる低出生体重児や早産児に向けた商品の研究開発も進めています。発達途上にある哺乳運動を探究し、どのような機能を支える商品を生み出すことが有効かを常に問いながら、専門家と連携して研究開発にあたっています。

ピジョンの研究の視点

低出生体重児・早産児の「吸着」「吸啜」「嚥下」

ピジョンでは哺乳運動を「吸着」「吸啜」「嚥下」の3つの要素を軸にしてとらえ、観察を行っています。

新生児や低出生体重児、早産児をサポートする際には、この3 つの運動をそれぞれ考慮することが有効です。特に低出生体重児や早産児では、吸着、吸啜、嚥下に未成熟性を認める場合が多く、哺乳運動の発達状態、特性を理解することが重要です。

低出生体重児・早産児の吸啜運動の発達

ピジョンでは、小さく生まれた赤ちゃんの「飲める」を目指して哺乳運動を探求してきました。低出生体重児や早産児では哺乳運動が未成熟であり、吸啜圧の弱さや吸啜運動の不規則性などの特徴があることが知られています。しかし、哺乳運動がどのように発達していくのかについては必ずしも明らかになっていませんでした。こうした課題に取り組んだピジョンの低出生体重児・早産児の哺乳運動に関する各種の共同研究の結果は、専門書にも掲載され、支援の現場で役立てられています。

早産児の吸啜、嚥下、呼吸の発達と調和1)

哺乳運動の発達についての客観的なデータによる把握が十分ではなかった2000年代初頭に取り組んだのが、圧センサを用いた観察手法を取り入れた吸啜行動の発達の検討です。

この研究では合併症等のない健常な早産児24 名(在胎週数平均30.0±0.18 週(28.6 週- 31.7 週))について、修正週数32週から36週の期間の吸啜の様子や嚥下と呼吸のタイミングを調べました。吸啜圧は口腔内の吸啜圧を測定しました(表1、表2)。

測定結果からは、修正週数32 週から33 週では弱く調和もみられなかった吸啜運動が、修正週数35週にかけて吸啜圧、頻度、持続時間ともに発達する様子が示されました。修正週数36 週の時点の吸啜圧は平均-87.3±2.4 mmHgと、正期産児の日齢5 の値(-80mmHg)2)に相当していました。

また修正週数32 週から33 週には嚥下の前後に呼吸を止めるパターンが多く認められたのに対し、修正週数35 週以降には、その割合は低下し、代わりに「吸気- 嚥下-呼気」という成熟したパターンの増加が確認されました。

こうした観察結果から、吸啜と嚥下の呼吸の成熟した協調運動は修正週数35週頃に確立していくと考えられました。


表1 吸啜行動の発達


表2 嚥下のタイミングと呼吸状態の頻度の変化

新生児期の哺乳評価と神経学的予後3)

新生児の吸啜行動の状態が、その後の神経学的発達の評価指標としても重要であることも分かってきました。

在胎週数平均37.8 週(35.1 週- 42.7 週)で生まれ哺乳障害を示す新生児65 名について、哺乳時に口腔内で生じる圧出圧(舌と口蓋で乳首を押す力)と吸啜圧(乳首を吸う力)の状態により哺乳運動を4 分類で評価したところ、生後18ヵ月時点での神経学的状況との関係性が認められ、神経学的予後の予測に有効であることが示されました(図1)。

4分類のうち哺乳障害の状態が重いClass1の「吸啜圧なし、弱い圧出圧」群(15名)では生後18ヵ月時点での神経学的評価において全例で重篤な障害が認められる一方で、Class 4の「規則的な正常範囲の吸啜圧」群(30名)では4 名が軽微な神経発達遅延が認められたもののその他の赤ちゃんは正常と評価されました。4 分類の哺乳運動の状態が不良であるほど、生後18ヵ月時の神経発達障害の割合が高い傾向が確認されています。

こうした結果から、哺乳運動の問題を早期に発見し課題に対応した支援策を採ることがその後の発達においても重要と考えられています。


図1 哺乳時の圧出圧と吸啜圧の状態のパターン分類

低出生体重児・早産児の嚥下と呼吸の探究

低出生体重児や早産児では哺乳運動に未熟性があり、嚥下と呼吸の協調運動が不完全であることから誤嚥などを起こしやすいとされています。そこでピジョンでは専門家と協働し、NICU入院児の哺乳運動中における呼吸動態の変化を検討してきました。

嚥下と呼吸の発達の基礎知識

大人の場合、嚥下によって呼吸は一時停止し、呼吸のリズムがリセットされて嚥下後の呼吸はほとんどの場合呼気から開始されますが6)、乳児期の嚥下においては、呼吸を止めることなく哺乳を続ける様子が日常的に観察されます。この背景としては、喉頭が高い位置にあり、口蓋垂と喉頭蓋の距離が近いため、呼吸しながら嚥下が可能となっていることが指摘されています4)(図2)。

こうした乳児期特有の嚥下は「乳児嚥下」と呼ばれ、大人と異なり嚥下反射時に高度な呼吸との協調を必要としなくても誤嚥せずに嚥下が可能であることが指摘されています(図3)。しかし、この嚥下と呼吸の協調運動は完全ではなく、特に低出生体重児・早産児では哺乳中に換気量が低下し、経皮的動脈酸素飽和度(SpO2)の低下や無呼吸が認められます5)

乳児の安全と十分な哺乳の実現による健全な成長を図るうえでも、嚥下と呼吸の調和の確立は、重要な発達のひとつです。


乳児嚥下と成人嚥下の違いの表


図2 乳児と成人の頭顎部矢状態の比較


図3 新生児の嚥下の特徴

嚥下と呼吸の協調運動と呼吸への負担

<嚥下中の呼吸動態を計測>

ピジョンの2006年の研究8)では、NICU入院児3名を対象に、哺乳中の赤ちゃんの呼吸の状態について、鼻腔気流センサを用いた観察研究を実施しました。

その結果、安静時の呼吸曲線は穏やかな立ち上がりと減衰を繰り返すのに対し、哺乳中の呼気・吸気にはスパイク状の急峻な立ち上がりと減衰を示す変化パターンを呈し、その前後に気流が停止される期間(約500~600ミリ秒)が認められました。また、嚥下中の赤ちゃんの呼気・吸気はいくつかのパターン構成からなることが示されました(図4)。


図4 鼻腔気流センサを用いた哺乳時の呼吸動態の観察

<哺乳中の呼吸動態の類型と呼吸抑制の関係を整理>

同様の手法を用いた2007年の研究9)では、NICU児の全ケース(13例)において、嚥下休止時の毎分呼吸数は安静時より増加しており、哺乳運動が呼吸を抑制していることが示唆されました。

また哺乳中の呼吸動態は、バースト期の気流のパターンにより3タイプに分けることができ、タイプAは気流が消失し、タイプBでは気流は連続するが安静時とは異なる気流のパターンを示し、タイプC は不規則な気流パターンを示しました。

タイプAに分類された赤ちゃんはタイプBに分類された赤ちゃんよりも在胎週数が有意に短く、未成熟な呼吸と嚥下の協調運動が呼吸抑制につながっている可能性が示唆されました(図5)。


図5 哺乳中の呼吸動態の類型と呼吸抑制の関係

<乳汁流量による嚥下と呼吸への負担の関係を確認>

さらに2008年から2009年にかけての研究10)11)では、嚥下時には、軟口蓋・口蓋垂の挙上に伴い鼻咽頭閉鎖が起こり、一過性気流停止(500ミリ秒以内)が発生していることが確認されました。一方で、嚥下を伴わない吸啜の場合、乳汁は吸啜によって吸引され、口腔内喉頭蓋谷付近に停留し、鼻腔部気流停止が起こらず、呼吸が連続することが分かりました。

また、吸い孔サイズを変更した2種類の人工乳首により哺乳中の呼吸動態を比較した結果、吸い孔サイズの大きい人工乳首では口腔内の乳汁停留量が多く、吸い孔サイズの小さな人工乳首に比べて1 回の吸啜当たりの嚥下発生頻度が高くなることが分かりました。このことから、乳汁流量の多い人工乳首を新生児や低出生体重児に用いると、嚥下回数の増加による呼吸抑制が生じやすく、呼吸に負担がかかる可能性があることが示唆されました(図6)。


図6 乳汁流量による嚥下と呼吸への負担の関係

哺乳の3 原則に基づく低出生体重児・早産児への支援

ピジョンでは長年の哺乳研究を通して明らかになった哺乳運動に大切な要素を「哺乳の3原則」と呼び、研究開発の中核に置いています。哺乳の3 原則とは、哺乳運動を構成する「吸着」と呼ばれる赤ちゃんの口唇による乳輪から乳頭への密着・密閉機能、「吸啜」と呼ばれる乳首をしぼるようにして乳汁を引き出す舌の運動、「嚥下」と呼ばれる乳汁を食道に移送する働き――の3つです(図7)。

低出生体重児や早産児の哺乳をサポートする際にも、この3つの働きを考慮することが有効です。低出生体重児や早産児の場合は、未成熟な状態の吸着、吸啜、嚥下が次第に成熟し、調和のとれた哺乳運動へと発達していきます。その間、哺乳運動のどの働きが不得手なのか、哺乳の3 原則の一つひとつの機能をよく見てどこにどのような課題があるのかを探り、必要なサポートを行うことが大切です。例えば「哺乳をうまくできない」といっても、その背景には、十分に吸着ができない、吸啜力が弱い、嚥下と呼吸の協調運動ができない、など様々なケースが存在します。

このように哺乳の3 原則を軸に哺乳運動の原理を追求し、必要とされる商品機能を見極めて提供するのがピジョンの哺乳研究のアプローチです。


図7 哺乳運動を構成する3つの主要因

低出生体重児・早産児の「吸着」「吸啜」「嚥下」の図パソコンディスプレイ用 低出生体重児・早産児の「吸着」「吸啜」「嚥下」の図スマートフォンディスプレイ用

参考文献
  1. 1) Mizuno K, Ueda A.The maturation and coordination of sucking, swallowing, and respiration in preterm infants. The Journal of Pediatrics . 2003; 142(1): 36-40.
  2. 2) 水野克己, 上田あき. 総説 乳児期における哺乳行動の発達. 小児科. 2000; 41(10): 1750-1756
  3. 3) Mizuno K, Ueda A.Neonatal feeding performance as a predictor of neurodevelopmental outcome at 18 months. Developmental Medicine & Child Neurology. 2005; 47(5): 299-304.
  4. 4) 弘中祥司. 嚥下運動の発達, 田角勝, 向井美惠編著. 小児の摂食嚥下リハビリテーション 第2版. 医歯薬出版, 東京, 2014: 37-39.
  5. 5) 木原秀樹. 早産児についての哺乳の発達Q26. NEONATAL CAREハイリスク新生児 栄養管理・母乳育児Q&A. メディカ出版, 大阪, 2015年秋季増刊(通巻380号):144-150.
  6. 6) 井上誠. 呼吸と摂食嚥下. 才藤・植田監修 摂食嚥下リハビリテーション 第3 版. 医歯薬出版, 東京, 2016: 92-93.
  7. 7) 向井美惠. お母さんの疑問にこたえる 乳幼児の食べる機能の気付きと支援. 医歯薬出版, 東京. 2013; 48.
  8. 8) 長島達郎ほか. 人工乳首を使用した哺乳運動中の呼吸動態の変化について. 日本周産期・新生児医学会雑誌. 2006; 42(2): 492. (ポスター発表:第42回日本周産期・新生児医学会・学術集会, 2006年7月; 宮崎)
  9. 9) 岡野恵里香ほか. 人工乳首を使用した哺乳運動中の呼吸動態の変化について 第2 報. 日本周産期・新生児医学会雑誌. 2007; 43(2): 442. (ポスター発表:第43回日本周産期・新生児医学会・学術集会, 東京)
  10. 10) 岡野恵里香ほか. 人工乳首を使用した哺乳運動中の呼吸動態の変化について 第4 報. 日本周産期・新生児医学会雑誌. 2008; 44(2): 570.(ポスター発表: 第44回日本周産期・新生児医学会学術集会, 横浜 )
  11. 11) 斉藤哲ほか. 人工乳首を使用した哺乳運動中の呼吸動態の変化について 第5報. 日本周産期・新生児医学会雑誌. 2009; 45(2): 638.(ポスター発表: 第45回日本周産期・新生児医学会学術集会, 2009年7月; 名古屋)