ピジョンは自然に、無理なく十分な量の母乳をさく乳できることを目指したさく乳器の研究を続けています。直接授乳が難しい状況でも、さく乳で母乳分泌を維持し、母乳を赤ちゃんに届けることで母乳育児を継続することができます。しかし、産後早期にさく乳器を用いて母乳育児の確立をするためには一人ひとりの状況に合わせた丁寧なケアが必要で、課題も多くあります。
ピジョンは授乳の課題解決に向けて医療従事者とともに授乳研究に取り組んでいます。

ピジョンは自然に、無理なく十分な量の母乳をさく乳できることを目指したさく乳器の研究を続けています。直接授乳が難しい状況でも、さく乳で母乳分泌を維持し、母乳を赤ちゃんに届けることで母乳育児を継続することができます。しかし、産後早期にさく乳器を用いて母乳育児の確立をするためには一人ひとりの状況に合わせた丁寧なケアが必要で、課題も多くあります。
ピジョンは授乳の課題解決に向けて医療従事者とともに授乳研究に取り組んでいます。
母乳分泌の確立には、産後早期からの頻回授乳が必要です(詳細はコラム参照)。
そのため、母親が一時的に赤ちゃんと離れなければならない場合でも母乳育児を継続する手段として、母親に対してさく乳方法を指導することが推奨されています1)。
産後1週間程度で1日に少なくとも500mLのさく乳量を確保できることが母乳分泌の確立において重要です。例えばHillらの研究2)においては、産後6,7日の母乳分泌量が産後6週目の母乳分泌量を予測することが示され、母親が退院するまでの時期にさく乳量を1日500mL以上にしておくことが大切とされています(下図)。日本の主要学会のガイドライン3)においても、産後6時間以内のできるだけ早い時期にさく乳を開始し、産後7~10日間に1日500mL以上の母乳分泌量を得ることが母乳分泌維持につながる目安として示されています。また、産後7~10日間は赤ちゃんが必要とする量と関係なく、制限なしに最大限まで(750mL以上)さく乳することが、その後の母乳分泌を維持するために大切であることも報告されています4)。
つまり、赤ちゃんに直接授乳できない場合でも、母乳分泌を確立するためには、産後できるだけ早くにさく乳をはじめ、2~3時間ごとにさく乳し、しっかりと母乳分泌量を増やすことが大切です。
【母乳育児、さく乳に関連する国内外の推奨内容】
【正期産と早産の母親の1日平均母乳分泌量の変化2)】
母親の乳汁生成は右表の3つの段階を経て確立・維持されます。
また右図に示すように出産に向けて多様な体内ホルモンによる調節をしながら母乳育児に向けた準備をはじめ、産後は赤ちゃんの吸啜やさく乳の刺激と射乳量の相互作用の中で母乳産生を安定させていくことがわかっています。
母乳分泌は、乳汁生成II期(産後3~8日)までは体内ホルモン(主にプロラクチンとオキシトシン)によって調節されるエンドクリン・コントロールですが、分泌が確立される乳汁生成Ill期(産後9日以降)になると母乳が飲みとられた(さく乳された)分だけ作られるオートクリン・コントロールが主な調節機構になります。
母乳分泌の確立と維持には、赤ちゃんが効果的に乳房から母乳を飲みとることが大切であり、それができない場合はさく乳することが大切です。
世界保健機関(以下WHO)/国連児童基金(以下UNICEF)の母乳育児ガイドラインが2018年に改訂され、母乳育児は一方通行な指導ではなく、母親との対話を重視する支援方法が推奨されるようになりました1)。
産後は母親の体の回復や心理的な面、赤ちゃんの状態など一人ひとりの状況は多様です。また産後の痛みも母乳育児継続に大きく影響します5)。直接授乳が難しい母親がさく乳器で母乳育児を確立するには、一人ひとりの状況に合わせた励ましやケアが必要です。そこで、ピジョンはさく乳器を使用する母親の状況に寄り添った母乳育児支援のため、医療従事者とともに研究し、授乳の課題解決に取り組んでいます。
本冊子では、ピジョンが授乳の課題解決に向けて取り組んできた研究の一端をご紹介します。
医療介入を受けた母親の母乳分泌量を記録した研究では、陣痛促進剤や不妊治療(ART)は母乳育児に影響を与えませんが、無痛分娩は母乳育児に影響を与えるという実態が明らかになりました(後述)。そして、母乳分泌量の記録から生後4か月での母乳育児率を予測する新たな目安も示されました(後述)。また、NICUにおける継続的な母乳育児支援を行った研究では、さく乳器の貸出しを含む支援を行うことでさく乳回数は変わらずにさく乳量を増やすことに成功しています(後述)。さく乳器による母乳育児確立に向けた実践研究では、母乳分泌量の変化と使用感が明らかになり、さく乳器を提供する際の課題がみえました(後述)。
今後も母親と赤ちゃんが望む母乳育児ができるように、情報の提供やさく乳器の研究開発を続けていきます。
適切な情報提供や、母乳分泌量を増加させるさく乳器の開発やケア提供に向けて以下A~Cを明らかにしました。
A:無痛分娩や陣痛促進剤による母乳育児への影響
B:不妊治療(ART)による母乳育児への影響
C:産後4か月に完全母乳を実現するための母乳分泌量
聖路加国際大学との産学共同* で取り組んだ産後の母乳育児確立支援について研究の一端をご紹介します。
* ピジョンと聖路加国際大学では、『2019-2021,「陣痛促進剤の使用量による母乳育児および内因性オキシトシンヘの影響:コホート研究」Pl:堀内成子、高畑香織 他」の産学共同研究を実施しました。
これまで無痛分娩や陣痛促進剤を使用した女性では、母乳育児率の低下が指摘されていました。
そこで本研究では初産婦における無痛分娩や陣痛促進剤による母乳育児への影響を明らかにしました。
無痛分娩群では、非無痛分娩群と比較して、産後早期の母乳分泌量が少なく、産後4か月の母乳育児率も低いという結果が得られました。陣痛促進剤使用の有無については、母乳育児への影響はありませんでした。
無痛分娩には、分娩時の疼痛を緩和できるという大きな利点があります。しかし、これまで母乳育児へのネガティブな影響はほとんど注目されていませんでした。今後は、母乳育児への影響について情報を提供すること、産後早期に母乳分泌量を増加させるケアの開発・提供が求められます。
分娩時の医療介入により母乳育児への影響が報告されています(下図)。
無痛分娩(硬膜外麻酔)
細くて柔らかいチューブを背中から腰の脊髄の近く(硬膜外腔)に入れて、そこから麻酔薬を少量ずつ注入して陣痛の痛みを和らげながら分娩をする方法です。硬膜外麻酔には、鎮痛剤のフェンタニルが一般的に使用されています。
唾液中オキシトシンと合成オキシトシン
オキシトシンは母乳の分泌に不可欠な役割を果たすことが知られています。産後は児が吸啜する刺激に反応して分泌され、母体の射乳反射のきっかけとなります。本研究では内因性オキシトシンを唾液から測定しました。
一方、無痛分娩にともなう分娩誘発や陣痛促進においては、陣痛促進剤(合成オキシトシン)が広く用いられています。
唾液中オキシトシン値(85名)は平均8.7pg/mL(標準偏差3.9 pg/mL)であった。無痛分娩群では、より低いオキシトシン値 (p=0.055)であった。
【母乳育児、さく乳に関連する国内外の推奨内容】
【正期産と早産の母親の1日平均母乳分泌量の変化2)】
無痛分娩の選択者に対して、母乳育児への影響について情報を提供すること、産後早期に母乳分泌量を増加させるケアの開発・提供が求められる。
これまで不妊治療(ART*)後の妊娠は、自然妊娠と比べ母乳での育児率や期間に影響を与えるとされていました。そこで本研究では初産婦にて不妊治療(ART)による母乳育児への影響を明らかにしました。不妊治療(ART)群では、自然妊娠群に比べて産後3日の母乳分泌量が少ないものの、年齢による影響を取り除くと有意差はありませんでした。産後1か月、4か月後の母乳育児率にも差を認めず、妊娠方法による母乳育児への影響はないことが示唆されました。
不妊治療(ART)による母乳育児への影響は認めませんでしたが、高齢の母親に対しては丁寧な母乳育児支援が必要と考えられます。
*ART:生殖補助医療Assisted Reproductive Technologyのこと。体外受精(IVF)、 顕微授精法(ICSI)、 胚移植(ET)、ヒト卵子・胚の凍結保存ならびに凍結胚移植等の技術に対する総称です。
平均年齢は、自然妊娠群より有意に不妊治療(ART)群で高かった。
以下の項目について両群で有意差は認めなかった。
両群に有意な差を認めなかった。
産後3日は不妊治療(ART)群のほうが有意に少ない傾向であったが、年齢を共変量として共分散分析を行った結果、有意な差を認めなかった。産後1か月も有意な差を認めなかった。
産後1か月および4か月後の母乳育児率にも有意な差を認めなかった。
不妊治療(ART)後の妊娠は、自然妊娠に比べて産後3日の母乳分泌量が少なかったが、年齢による影響を取り除くと有意差は消失した。産後1か月、4か月後の母乳育児率にも差を認めず、妊娠方法による母乳育児への影響はないことが示唆された。
不妊治療(ART)自体は母乳育児に影響を与えないが、年齢による影響はあるため、産後早期に母乳分泌量を増加させるケアの開発・提供が求められる。
「不妊治療(ART)が母乳育児に悪影響を及ぼすのでは」と不安に思われる母親もいらっしゃいます。本研究においては、不妊治療 (ART)を行う方は年齢が高い傾向があり、その年齢の影響を取り除いて解析すると、不妊治療(ART)自体は母乳育児に影響をしないことが示されました。産後早期からの様々な工夫で母乳分泌量をしっかり増やすことで、完全母乳への移行も可能です。臨床現場では自信をもって母乳育児支援に臨んでいただけますと幸いです。
初産婦は産後早期に人工乳を補足しながら母乳育児を進める時期がありますが、完全母乳を達成するための母乳分泌量の目安は示されていませんでした。そこで本研究では初産婦にて完全母乳を実現するための母乳分泌量を明らかにしました。
産後4か月に完全母乳を達成するための母乳分泌量は、産後3日で102g/日、産後1か月では563g/日でした。授乳前後の児の体重差から母乳分泌量を計測する手法を用いることで、数か月先の母乳育児状況を予測する精度の高いモデルを初めて示すことができました。エビデンスに基づいた母乳育児支援を展開する際の根拠の一つとして活用できます。
ROC解析により、産後4か月時点の完全母乳の達成を高く予測する(感度80%以上)母乳分泌量の閾値として、
・産後3日:702g/日(感度81.5%、特異度50.0%)
・産後1か月:563g/日(感度81.5%、特異度75.0%)
が見出された。(下図)
【予測精度イメージ図:産後3日/目安102gの場合】
※産後1か月/目安563gの場合は感度81.5%、特異度75.0%になります。
見出された閾値は、それぞれの時期の児の必要摂取量とも概ね一致していた。
人工乳を足しながら母乳育児を確立していく初産婦に対しては、本モデルの産後早期の母乳分泌量の閾値を一つの目標に支援することが重要と考えられる。
産後早期の母乳分泌量の少なさから、母乳育児を諦めてしまうことがあります。初産では、産後早期にどうしても人工乳を補足する場合がありますが、母乳分泌量を確保することで完全母乳への移行が可能です。今回の閾値を一つの目安に、一人ひとりの状況を踏まえた支援をしていただければ幸いです。
母乳育児の継続には、母親が退院後も無理なく母乳育児を続けられる環境整備が重要です。
さく乳器を用いた退院後の在宅生活における先駆的な母乳育児の継続支援に取り組んでいる富山大学付属病院の研究をご紹介します。
WHO/UNICEFでは、母乳育児支援の最も要となる「母乳育児がうまくいくための10のステップ」を発表しており、誰もが無理せずに自分なりの母乳育児が続けられる環境を作るためには、医療機関として支援体制を整える必要があることを示しています。
2014年からNICUでは母乳育児支援チームを結成し、実践と評価を繰り返して段階的に発展させてきました。
今回は、2018年にⅤ期を導入し、退院後の母乳育児支援を行った成果についてご紹介します。
Ⅴ期では、電動さく乳器の貸出しも開始しました。その結果、さく乳回数は増加せず、さく乳量に有意な増量が見られました。身体的、精神的負担を増やさず、さく乳量が増加したことは長期に渡り、さく乳を継続する母親にとって意義のある結果であったといえます。
「母乳育児がうまくいくための10のステップ」に基づく効果的なケアを目指して、NICUにおいて段階的に母乳育児支援に取り組んできた(下図)。母乳育児支援料をとることで継続した支援を実現している。
【NICUで取り組んできた母乳育児支援プロジェクト】
さく乳量の平均値は、V期導入後の群が導入前の群に比べて、すべての日齢(3日目、7日目、14日目)で有意に高かった(t検定、p<0.05)
さく乳回数のV期導入前後の平均値に有意差は認めなかった。
【V期支援策導入前後の2群のさく乳量とさく乳回数の推移】
NICU入院児の母親が自宅でさく乳を継続することは容易ではなく、家庭での役割や、家族との生活、手搾りによる手の痛みがさく乳の継続を困難にしている。
そこでV期では、母親の身体的疲労感や精神的苦痛を軽減することが、自宅でのさく乳継続に繋がると推測し、電動さく乳器の貸出しを開始した。その結果、さく乳回数は増加せず、さく乳量に有意な増量が見られた。それは、電動さく乳器を使用することで、手搾りによる手の痛みが軽減したことがさく乳の継続につながったと推察できる。
退院後支援では自宅でのさく乳方法をさく乳日記を用いて確認したことが、母親の効果的なさく乳方法の理解と手技の獲得につながり、その結果、残乳が減少し母乳分泌量の増加に影響したと考えられる。
一方で、さく乳回数が増えなかったことは、母親が自宅での役割や生活リズムを崩さずに、母乳育児を継続できたとも解釈できる。身体的、精神的負担を増やさずさく乳量が増加したことは長期に渡り、さく乳を継続する母親にとって意義のある結果であったといえる。
【V期に実施した退院後支援策の内容と使用ツール】
さく乳で母乳育児を確立するためには、分娩後できるだけ早くから頻回なさく乳を開始することが必要となります。しかし産後の母子の状況は多様です。
産後早期から使われるさく乳器の課題を一つひとつ解決していくには、医療従事者との協力が欠かせません。さく乳器を用いた母乳育児確立支援についての研究活動の一端をご紹介します。
母子分離により直接授乳が行えない場合、産後早期からの頻回さく乳が母乳育児継続に有効とされますが、乳房状態変化の著しい時期にさく乳のペースを確立するには、一人ひとりの体調や心理状態を考慮した支援が必要です。児がNICUに入院し電動さく乳器使用を希望した母親の母乳分泌量の推移と、産後の乳房の生理的状態に伴うさく乳器の使用感の変化を調べ、母乳育児支援に必要なケア内容と課題について考察しました。
対象者4名いずれも10日目前後に目標の目安1日500mLを達成し、母乳育児確立ができました。一方、乳房状態の見極めと乳房の変化に応じた適切なさく乳器の使用方法の提示は、産後早期において必要不可欠な支援であることがわかりました。
対象者 NICU入院児・多胎児を持ち電動さく乳器使用を希望した母親4名
分娩後6時間以内に電動さく乳器の使用(ピジョン社製、病産院用電動さく乳器研究用モデル)を開始し、10日目前後で500mL以上の母乳分泌量の確保を目標とした。
入院中に頻回さく乳支援、乳房状態に応じたさく乳方法の提示と医療従事者による乳房ケア介入を行った。分娩後から入院中または産後1か月までのさく乳回数、さく乳所要時間、さく乳量、乳房緊満の有無、さく乳器使用感について、母親に記録を依頼した。
助産師1名が分娩直後から密着することにより、貴重な記録を得ることができました。新型コロナウイルス感染症の拡大により研究は中断され、少数例の結果となりましたが、産後早期のさく乳器の使用について得られた示唆をご紹介しました。忙しい臨床現場で、手厚いご指導とご協力をいただいた師長様をはじめ病院スタッフの方々、ならびにお母さま方に厚く御礼申しあげます。
ピジョンは長年培ってきた哺乳研究の知見を活かし、
自然に、無理なく、十分な量の母乳をさく乳できることを目指したさく乳器の研究を続けています。
さく乳と、母乳保存と、赤ちゃんの哺乳を商品でつなげることにより、
さまざまな状況での母乳育児をサポートできることを目指しています。
近年、分娩時の医療介入が増加する中、助産師からは「母乳育児の確立に難しさを感じる」などの指摘がありました。 本研究では、こうした臨床現場の実感を裏付ける結果が示されました。無痛分娩には、分娩時の疼痛を緩和できるという大きな利点があります。
一方、母乳育児確立の観点から見つめ直すと、無痛分娩を実施した群の母乳分泌量に影響する可能性が示唆され、その影響は長期に渡ることが示唆されています。母親をサポートする医療従事者はこの点を理解し、意識して産後の母乳育児への影響についての情報提供と母乳分泌量を増加させるためのケアを提供していく必要があるでしょう。今後の母乳育児実現に向けた広範なサポートに役立てていただければ幸いです。